仕事

山のぼせ

7月に入ると、博多の街は独特の熱気に包まれます。

つい数日前に、いつも仲良くしてくださっている殿方から、「Ayaさん、山笠の飾り山を回って来ました🤗 今年の飾り山も迫力があって、どれも絢爛豪華で素晴らしい作品ばかりでした」と、たくさんの画像が送られてきました。

私は生粋の博多っ子ではないのですが、それでも「ああ、今年もいよいよ夏だ‼️」と実感するんですよね。

博多祇園山笠は、1241年に承天寺の聖一国師が疫病退散を祈願し、施餓鬼棚に乗って祈祷水をまいたのが始まりとされる、780年以上の伝統を誇る博多の夏祭りです。

博多の総鎮守である櫛田神社の奉納神事として行われ、この時期、博多の街は祭り一色になります。 

街中に飾られる「飾り山笠」は、高さ10メートルを超えるものもあって、歴史上の英雄や歌舞伎を題材としたものや、今人気のアニメなどを題材にした豪華な人形が飾られるのですが、博多人形師たちの誇りと技が集約した力作は圧巻です。

いっぽう、勇壮な掛け声とともに男衆が街を駆け抜ける「舁き山笠(かきやま)」は、迫力満点の神事。 

祭りのクライマックスは7月15日の早朝の「追い山」で、博多では昔から「追い山が終わると本格的な夏が来る」といわれているのです。

ところで、博多には「山のぼせ」という言葉があります。 

山笠の時期になると、仕事も家のこともそっちのけで山笠一筋になってしまう人のことなんですが、それぞれの所属する町内を示す、伝統柄に染められた法被に身を包み、何か月も前から準備に励んでおられるわけですが、とりわけ7月1日から15日に迎えるクライマックスまでは、とにかく寝ても覚めても山笠のことばかり。

山笠に関わる殿方たちは、大人も子供もこの期間は、もう何かに取り憑かれたように山笠に熱中するという「のぼせ」ぶりなわけです。

部外者からは少々呆れられながらも、「そこまで夢中になれるものがある」というのは、本当に幸せなことだと思うし、体をはって危険な神事に参加するという意気込みは、特別な、というか、いわゆる「神がかり的に」夢中にさせられてしまう何か不思議な力があるのかもしれません。

通常、博多弁で言うところの「のぼせる」という言葉は、ある意味、関西弁の「いちびる」という言葉と、ちょっと共通するところがあるんですね。

関西弁で、「なに、いちびってんねん‼️」とツッコミを入れられるのと同等のシチュエーションで、博多弁では「何ばのぼせようとや‼️」と突っ込まれるってかんじです。

例えば、テンションアゲアゲではしゃいでしまっている子供に、お母さんが、「もう!いちびらんといて!」と注意するのと同じシーンで、博多のお母さんだったら、「もう!のぼせんどって!」と言って、子供をたしなめたりします。

しかし、山笠に「のぼせてる」人に関しての場合は、完全に関西弁の「いちびり」とはニュアンスが異なります。

完全に我を忘れて、脇目も振らずに山笠一筋になってしまっているという感じ。 それを、博多では「山にのぼせとー(山にのぼせている)」と、少々呆れ気味に、でも「しょんなか(しょうがない)」という気持ちで、寛容な眼差しで見守るというわけです。

鎌倉時代から続く、疫病退散を願う夏の神事です。 彼らの「のぼせぶり」のおかげで、威勢よく博多の街が清められている…。

女性はけして表立って関われないお祭りです。 陰で「山のぼせ」を支えるたくさんの女性たちをはじめ、山笠に参加しない人たちもまた、どこかそんな気持ちで、歴史あるこのお祭りを誇りに思っているのだと思います。

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